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cameraカサンドラ・クロス

『カサンドラ・クロス』、疾走する憂愁のグランドホテル

樋口尚文(映画評論家・映画監督)

『カサンドラ・クロス』1
「キングコングの片足を食いちぎった映画」。その言葉が公開時の『カサンドラ・クロス』に与えられた勲章だった。1976年12月18日、かのディノ・デ・ラウレンティス製作の大作『キングコング』の対抗馬として同日ロードショー公開された『カサンドラ・クロス』は、今ひとりのイタリアの大プロデューサー、カルロ・ポンティが夫人のソフィア・ローレンを主役に据えて製作したサスペンス大作だ。

しかし、監督はマイケル・カコヤニス監督『その男ゾルバ』などで助監督を務めていたというギリシャ人のジョルジ・パン・コスマトスという当時まだ35歳の未知なる才能で、『家族の肖像』のバート・ランカスター、『地獄に堕ちた勇者ども』のイングリッド・チューリン、『夏の嵐』のアリダ・ヴァリと、ヴィスコンティ、アントニオーニ、ベルイマンに愛された名優たちが集う列車パニック映画(!)とはいったい全体どういうものか、公開直前まで完成品を観られなかった興行関係者の期待と不安は相当なものだった。列車パニック映画といえば、前年に公開された東映映画『新幹線大爆破』の緻密なサスペンスが圧倒的な好評を呼び、パリで大ヒットをおさめた矢先であったので、当時の映画評では『カサンドラ・クロス』の鷹揚な大作演出はそれに比較されて分が悪かった。

『カサンドラ・クロス』2
だが、これはサスペンスである前に、大陸横断鉄道のコンパートメントごとに逗留するオールスターの機嫌よい大芝居を愉しむグランドホテル形式のメロドラマなのである。『ゴッドファーザーPARTⅡ』で強烈な存在感を見せたばかりのアクターズ・スタジオ総帥リー・ストラスバーグ、本作と『ジャガーノート』『ワイルド・ギース』で当時アクション映画の顔となっていたリチャード・ハリス、プロフットボールの花形転じて『タワーリング・インフェルノ』に俳優として客演していたO・J・シンプソンン、『地獄の黙示録』直前の若きマーティン・シーン、『ショウ・ボート』を遠く離れて大貫禄のエヴァ・ガードナー、一時日本の若い女性にもアイドル的があったイタリアの二枚目俳優レイモンド・ラブロック、アメリカの二枚目スターながらイタリアのアクション映画にも出演していたジョン・フィリップ・ロー・・といった大スタアからフレッシュな新星までがずらりと揃うユニークな「幕の内弁当」ぶりは、それだけでも全く飽きない。

『カサンドラ・クロス』4
そんな疾走するメロドラマ『カサンドラ・クロス』は、当時『チャイナタウン』や『オーメン』のサントラで作家的頂点にあったジェリー・ゴールド・スミスの思いきりムーディなテーマ曲で始まるが、地方の併映作がお涙頂戴のイタリア映画『ラスト・コンサート』であったことも奏功し、パニック映画としては珍しく女性客も集めて1977年の映画興行成績では『キングコング』『遠すぎた橋』という超大作に続いて第三位と大健闘した。無名だったジョルジ・パン・コスマトスは大味ながら安定した大作演出が認められ、テリー・サバラス主演『オフサイド7』、シルヴェスター・スタローン主演『ランボー/怒りの脱出』『コブラ』、チャーリー・シーン主演『ザ・ターゲット』などのアクション大作を任せられた(2005年に64歳で病没)。

カサンドラ・クロス


初ブルーレイ化!7/20発売
華麗な人間ドラマを乗せて走る豪華大陸縦断特急!
一転!地獄の炎を噴きあげて巨大なパニックへ叩き込む、
そこが-カサンドラ大鉄橋だ!

抜群のアイデアと傑出したストーリー、オールスターキャストで描く、
超弩級のサスペンス・パニック・アクション巨編!!
1977年度洋画配給収入第3位(配収約16億円!)を記録!!
『タワーリング・インフェルノ』と『ポセイドン・アドベンチャー』を超特急列車に乗せて突っ走り、空前の反響となって噴き上がった!

http://kingmovies.jp/library/kixf-397
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