REVIEW

cameraカプリコン・1

『カプリコン・1』、燃えたぎるポリティカル・フィクション

樋口尚文(映画評論家・映画監督)

CAPRICORN ONE
「面白くなかったら、入場料をお返しします」。そんな前代未聞の宣伝文句が反響を呼んだのが、1977年12月10日公開の『カプリコン・1』である。内容に関する配給側の圧倒的な自信を裏づけるコピーだが、しかも本作は米国より半年も早い世界初公開であった。とはいえ、ロバート・アルトマン監督『ロング・グッドバイ』や本作のピーター・ハイアムズ監督『破壊!』に主演していたエリオット・グールドのほかは目玉のスタアが不在の、地味な印象だった『カプリコン・1』は、公開時、そのタイトルも含めてまるで想像のつかない作品であった。

しかし実際に『カプリコン・1』を観た当時の観客や評論家、記者たちの評価は目覚ましいものがあった。当初撮影に協力していたNASAは、この「アポロ計画陰謀説」をもろにモチーフにした内容を知って猛烈な拒否に転じたというが、国家が宇宙開発事業の存続のために二重三重の虚偽で事実を塗り固め、そのおかげで人命さえもがためらいなく蹂躙されてゆく、というごくシンプルで骨太な骨格が秀逸だった。一見SF映画的な導入で始まる本作だが、実はシニカルな体制批判の意志がみなぎるポリティカル・フィクションなのだった。丁寧な警察アクション『破壊!』で監督デビューしていたピーター・ハイアムズは当時まだ34歳の新鋭で、本作が問答無用の出世作となった。

CAPRICORN ONE
エリオット・グールドのほか、主要な役割である三人の宇宙飛行士には、テレビシリーズ中心に活躍する二枚目スタアのジェームズ・ブローリン、ウディ・アレン監督『インテリア』やマイケル・チミノ監督『天国の門』など作家性の強い作品に出演していたサム・ウォーターストン、『カサンドラ・クロス』に次いでの客演となるO・J・シンプソン、テッド・ポスト監督『ダーティハリー2』やアラン・J・パクラ監督『大統領の陰謀』でおいしい役どころに扮したハル・ホルブルックらが起用され、まことに地味な配役ではあるがひじょうに役柄に副った適材適所のキャスティングであった。

このおとなしめの配役に彩りを添えるべくゲストスタアとしてカレン・ブラックが登場するのが、まず嬉しい。『華麗なるギャッツビー』の助演が高く評価された後、当時は『エアポート‘75』『イナゴの日』などの娯楽大作やヒッチコックの遺作『ファミリー・プロット』の主演を果たしていた。そして今ひとりのゲストスタアは、さまざまな戦争アクションで鳴らし、当時はTVシリーズの『刑事コジャック』で人気を博していたテリー・サバラスだが、その不意の登場から大胆なる空中戦(圧巻!)へなだれこむ終盤のシークエンスは、ピーター・ハイアムズのサバラスへの愛が溢れる名場面となっている(ちなみにサバラスの次の主演作は、『カサンドラ・クロス』で注目されたジョルジ・パン・コスマトス監督の次なる作品『オフサイド7』であった)。また、主人公の宇宙飛行士の「悲劇の妻」に扮したのが、ブレンダ・ヴァッカロというのもツボであった。『真夜中のカーボーイ』『いくたびか美しく燃え』などで目立っていたが、『カプリコン・1』の頃にはカナダ映画『ウィークエンド』でのエロティックな暴力の表現が一部の濃い映画ファンの間では話題になっていた。

CAPRICORN ONE
上々の脚本(自ら脚本を手がけることも多い)とこうした俳優愛を感ずるキャスティングをもって、ピーター・ハイアムズ監督は本作で一気に評価を高め、以後は主にアクション物やSF物の手練れとして重宝されることになる。『2001年宇宙の旅』に連なる『2010』やショーン・コネリー主演『プレシディオの男たち』などの佳篇も多い。なお、やはり『カサンドラ・クロス』に続いて『カプリコン・1』の音楽を担当したジェリー・ゴールド・スミスは、本作のスコアをいたく気に入っており、コンサートでもたびたび演奏するという。

カプリコン・1


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