REVIEW

cameraSCUM/スカム

塀の中のスカム模様は、色あせない。

石川三千花(イラストレーター)

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 “『さらば青春の光』の裏に位置する、伝統的なイギリス映画”という宣伝文句に惹きつけられて試写室に『SCUM/スカム』を観に行った初秋の日以来、主人公カーリンの不敵な面構えが脳裏から離れないでいる。
 いや、カーリンだけではない。菜食主義者を装うアーチャーやむごたらしいレイプ攻めに遭うデイビス、人種差別を受ける黒人の受刑者。それからカーリンがダディ(受刑者のボス)になる以前に、その名称を誇示していたバンクスとそのチンケな手下たち。さらには、彼らを人間扱いなしの冷酷な支配下におく少年院の看守たちの顔もまた、強烈な印象として残っているのだ。
 誰ひとりとして、幸せな顔をしている人間が出てこない映画。残虐で陰湿で、救いようがないスカム(人間のクズ)たち。しかも、エンディングの突き放しっぷりはどうだ!? 何のカタルシスもなく、塀の中には相も変わらずどんよりとした灰色の空気が漂うだけだ。
 決して心地よい作品ではないのに、嫌いになれないどころか日を追う毎に好きになり、「見落としてはならない70年代のイギリスを代表する作品を今やっと目撃した」という想いに駆られている。そして、この少年院で起こった暴力と憎悪が渦まく世界は、今なおどこにでもあることなのだと気がつく。だからこそ、このエンディングなのか。今は亡き、気骨稜々のアラン・クラーク監督に、ズシリと重い人間の業を突きつけられた気がした。
 とはいえ、本作には秀作につきもののユーモアのセンスが(それもイギリス特産シニカルなユーモア)根底にあり、悲惨な状況が語られてはいるものの、やたらと流血があふれるだけの凡百の暴力映画とは一線を画している。新入りのカーリンがバンクス一派からリンチを食らい、虎視眈々と復讐の機会を狙っているのだが、その機が訪れたときのカーリンの一発逆転の破壊力たるや!強過ぎて、笑えるレベルだ。B棟の黒人のダディと決着をつけるシーンでも、いきなり棍棒の武器使いで一発圧勝。こちらも「旧ダディたち、油断し過ぎじゃね」と突っ込みが入るレベルなのだ。
 さらに、知性とシニカルなユーモアの狭間でへらへらしているアーチャーの存在が光る。外壁のペンキ塗り作業をしていた彼は、黄土色の壁に白いペンキでデカデカと「I AM HAPPY」と書きなぐって、看守の怒りを買ってしまう。このアーチャーという男、何にも属さない特異なキャラでありながら、人一倍、心根の優しいところがあり、字が読めない受刑者の手紙を読んであげたりする。しかも、繰り返し懇願されて、指示通りに住所から読んであげるのだ。強面のカーリンとの間に、友情のようなものが感じられるのもいい。これだけの強烈な面々が織りなす、塀の中のスカム模様。潔く、流行の音を流すでもなく、自由と暴力の真実に迫った作品を、35年の年月を経て今観れる幸せに浸っている。


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『SCUM/スカム』 <原題:SCUM(人間のクズ)>

●監督:故アラン・クラーク「MADE IN BRITAIN」 ●脚本・原案:ロイ・ミントン「バッド・ガールズ」(未)
●製作:ダヴィーナ・ベリング&クライヴ・パーソンズ「アイ・アム・デビッド」
●製作補:マーティン・キャンベル「007/カジノ・ロワイヤル」監督
●製作総指揮:ドン・ボイド「ラスト・オブ・イングランド」 ●撮影:フィル・メヒュー「007/ゴールデンアイ」
●編集:マイケル・ブラッドセル「恋する女たち」 ●出演:レイ・ウィンストン「ディパーテッド」、
ミック・フォード「光年のかなた」、ジュリアン・ファース「バンク・ジョブ」、フィル・ダニエルズ「さらば青春の光」
提供・配給:キングレコード 配給協力・宣伝:ビーズインターナショナル
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10月11日(土)より、新宿シネマカリテにて陰鬱のレイトショー!