COLUMN

camera大怪獣モノ

バカ映画であることは変わらないけど、河崎実作品はこれからも進化を続ける!!

長野辰次(ライター)

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 萌えカルチャーを先取りした『地球防衛少女イコちゃん』(87年)で商業デビューを飾った河崎実監督。ビデオ業界に多大な影響を与えた『飛び出せ!全裸学園』(95年)、さらには『いかレスラー』(04年)『コアラ課長』(06年)『かにゴールキーパー』(06年)の“動物三部作”、モト冬樹がテロリストと戦う『ヅラ刑事』(06年)、筒井康隆原作『日本以外全部沈没』(06年)、壇蜜主演の官能系怪獣映画『地球防衛未亡人』(14年)…と誰から頼まれることなく、おかしな映画をひたすら撮り続けてきた。“バカ映画の巨匠”河崎監督は2017年で商業デビュー30年を迎える。ひと言で30年といっても短くない歳月だ。この30年の間に日本は2度の大震災を経験し、1億総中流と呼ばれた社会構造は根底から崩れていった。それでも河崎実作品は変わらない。日夜、日本を、そして地球の危機を救うという口実のもと、奇人変人狂人たちが大いに暴れ回り続けている。

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『シン・ゴジラ』(16年)の製作発表を受け、便乗企画として誕生した『大怪獣モノ』だが、そこには『ゴジラ』(54年)や『ウルトラマン』(66〜67年)とった特撮作品を観て育ってきた河崎監督の“怪獣もの”として全てが注ぎ込まれている。怪獣と巨人が戦うという設定は、『ゴジラ』と『ウルトラマン』とのミッシングリンク期に作られた『フランケンシュタイン対地底怪獣』(65年)がモチーフとなっているわけだが、主人公の巨人化した第1形態が人気プロレスラーの飯伏幸太、悪に目覚めた第2形態がヒールレスラーの鈴木みのるとなる。同じ細胞から善と悪とに分離し、異なるモンスターとなっていく。これは『フランケンシュタイン対地底怪獣』の続編『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(66年)を彷彿させる。

 また、主人公は恋いこがれるヒロインのために、常人ならざるものへと変身することを決意する。『フランケンシュタイン−』二部作に加え、『空の大怪獣ラドン』(56年)、『マタンゴ』(63年)など数々の東宝特撮シリーズを手掛けた名脚本家・馬淵薫の代表作『ガス人間第一号』(60年)の土屋嘉男と同じではないか。愛する女のために、男は危険を省みずに体を張る。いつもの河崎作品のように能天気なギャグが目いっぱい散りばめられた『大怪獣モノ』だが、その裏に隠された男の哀しき業を感じずにはいられない。

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 表向きは相変わらずの河崎実ワールドなれど、これまでの河崎作品とはビミョーに異なる味わいも出てきた。巨大化した主人公の勝負パンツをめぐって、ダブルヒロインである河西美希と赤井沙希が激しく対立する。一枚の男のパンツを前にして火花を散らす女たち。『ウルトラマンオーブ』(テレビ東京系)のメインシナリオライター・中野貴雄との共同脚本作ではあるが、これまでになく女性の言動が主人公の運命を大きく左右することになる。2015年5月に東京スポーツが報じたように19歳年下の一般女性と結婚したことも河崎監督の作風に少なからず影響しているに違いない。ちなみにクライマックスに登場する“大物キャスト”はお笑い好きな奥さまとの会話から生まれたアイデアだったとのこと。
 これからも河崎監督はごきげんなバカ映画を撮り続けてくれるはずだ。先行きが不透明な現代社会において、何ともハッピーなことではないか。河崎実作品がバカ映画であることは変わらない。でも、その中身はこれからますます進化を遂げていくだろう。

大怪獣モノ


奇才・河崎実監督が天才レスラー飯伏幸太とタッグを組んだ、常識を超えた大特撮怪獣映画!

■商品情報:http://kingmovies.jp/library/kixf-444
■公式HP:http://mono-movie.com/
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