COLUMN

camera「スクール・ウォーズ」その3

『スクール・ウォーズ』Blu-rayをより楽しむため、頭の片隅に留めておきたい事柄

用田邦憲(ライター)

誰もが「人生」を背負って

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『スクール・ウォーズ』は、大映テレビ製作のドラマに特有の、ある種「時代がかった」演出と、「実話を基にした」ことから来るドキュメント性が絶妙なバランスでブレンドされた作品だ。それも、全体にわたって均一のブレンドだったわけではなく、あるシーンにおいては「フィクション」の部分が強調され、また別のシーンにおいては「実話」の部分が敢えて“ナマ”に近い形で表現されているというのがすごい。当時の創り手たちが100%、意図的だったかどうかはわからないが、こういった「さじ加減」の巧みさもまた『スクール・ウォーズ』が視聴者を惹きつけた要因のひとつだったといえよう。
 そんな視点で再度、本作を眺めてみたとき、浮かび上がってくるのが「人間讃歌」とでも言うべき、心あたたまる描写の数々である。『スクール・ウォーズ』の特徴として、すべての要素が主人公やその周辺に集約されるのではなく、いわゆる「脇役」のキャラについても、彼らが背負った「人生」の一端がきちんと語られる、という点がある。シンプルに「見やすい」ドラマを作っていくなら、限られた放送時間の中で切り捨てても仕方ないだろう、と思えるような部分まで、しっかり拾っているのである。また、昭和のドラマに欠かせなかったナレーター・芥川隆行の名調子が、彼らの実在感をより高めていた。
 一例を挙げよう。いよいよ川浜高校が全国優勝を成し遂げるクライマックス――第25話「微笑む女神」から第26話「花園よ永遠なれ」にかけて。ここでは本来、主人公・滝沢賢治と大会に臨む選手たちを追うだけでも物語は成立するはずである。しかし、それに加えて、荒廃していた時代の川浜高校を知る者たち、あるいはラグビー部のOBたち、さらにはさまざまな理由で命を落とした人々の関係者たち、賢治の恩師たちまでが登場して、「決戦」へと至る流れを大いに盛り上げる。

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 だが、それだけではなかった。失火によって川浜高校の「ライジング・サン」のジャージを燃やしてしまったクリーニング店の店主。選手たちの想像を絶する猛練習に感銘を受けた旅館の主人と、そんな夫の思いを理解する妻。そして、賢治や川浜高校とは直接の関係が全くない、花園ラグビー場のグラウンドキーパー……。これらのキャラは極論すれば登場しなくても問題ない人々だ。もちろん、クリーニング店の火事のくだり自体は、ふたたび悪夢の「109対0」当時のジャージを着ることになる原因なので外せないが、重要なのは、その後である。店が燃えてしまって大変な状況のはずの店主が、せめてもの償いだと、ジャージの洗濯に参加する。物語を進めていくうえでは、店主のことは無視しても構わないはずなのに、だ。とはいえ、この行動によって、店主の人柄が伝わってくる。
 旅館を営む夫婦のくだりも、引いた目線で捉えれば、ラグビーが大変なスポーツだ、などと「何を今さら」という感じかもしれない。しかし、昔から川浜高校を支えてきた人たちだけでなく、ラグビーの「ラ」の字も知らなかったような夫婦の「祈り」もまた、川浜に勝利の風を吹かせたのである。三角八郎、石井富子(現:石井トミ子)というキャスティングも功を奏し、「決戦直前」の描写に広がりを与えていた。

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 グラウンドキーパーに至っては、おそらく賢治はその顔すら、最後まで知らなかったはずだ。だが、勝利の美酒に酔うどころか、頂点に立ったときから次の勝負が始まっていることを肝に銘じていた賢治を、全くの第三者が静かに見つめていたというくだりが、『スクール・ウォーズ』の最終回に、なんともいえない余韻を与えた。「孫の名前」に悩んでいた彼が、最終的にどう命名したかまでは語られないが……。
 ここで紹介した4名は、『スクール・ウォーズ』全体を振り返る際にも、優先順位で言えば、ほとんど採り上げられない人々だろう。しかし、そんな彼らからも、確実に「人生」が匂う。本作では、他の回でもそういった人物を随所で見つけることができるだろう。映像がよりクリアになったBlu-rayで、物語やキャラについても、これまで以上に深く掘り下げてみてほしい。『スクール・ウォーズ』は、それに足る奥行きを持った作品なのだから。

スクール・ウォーズ


TVドラマ史に燦然と輝く青春ドラマの金字塔「スクール・ウォーズ」が初Blu-ray化、初BOXで遂に発売!!
一大ブームを巻き起こした初放送から30余年。HDリマスターで鮮明に甦るあの興奮と感動。
実話をもとに作られた奇跡の物語に再び涙するー

http://schoolwars-blu-ray.com
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