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浴室の美女 江戸川乱歩の「魔術師」

 『美女シリーズ』第2作の「浴室の美女」は、ファンにも人気の高い作品だという。その要因は、第1作を経て、実質的にこの作品が後の『美女シリーズ』の方向性を定めたといえる点にあるだろう。
 冒頭、すでに明智が本作における「美女」である妙子(夏樹陽子)と旅先で知り合っており、視聴者へ向けて、彼が「この女(ひと)のすべてを知りたいという欲望」を抱いていることが、明智自身の独白という形で語られる。近年のドラマ、というかセオリーなら、ふたりの「出会い」から描くところだろうが、そこをさりげなくすっ飛ばしているあたりの潔さが、なんとも素晴らしい。残念ながら(?)旅先での明智が妙子の「すべてを知る」ことは叶わなかったものの、「自分の予感はよく当たる」と言う妙子の言葉通り、その後も明智は彼女に関わり続けることになった。実は、この「予感が当たる」という発言自体が後の展開の伏線だったのだが――。
 やがて判明していく、妙子をめぐる呪われた歴史。妙子の父で大富豪の玉村(佐野周二)や、その一族に対して復讐を遂げようとする謎の「魔術師」は部下を使って明智を捕らえ、目的達成に一歩ずつ近づいていく。壁に飾られた仮面に紛れて、捕らえた明智を監視するなど「魔術師」を演じる西村晃の演技が終始ノリノリで、好敵手の存在がこの種のドラマの活劇性を高めるということを再確認させてくれた。「首と胴とを別々にしてやったよ」という言い回しにも、陰湿で執念深い「魔術師」のキャラクターがよく表れている。
 しかし、その「魔術師」は、完全なる復讐を実現させる前に、明智の推理に敗北。自害して果てる。これだけの大物が意外と早く……と思っていたら、呪いの復讐劇はある人物によって「続演」されており、「魔術師」の狙いは、その死後にまんまと達成されてしまうのであった。実際のところ、明智の華麗なる「謎解き」より前に、視聴者にも概ね、協力者が誰なのか察しがついていただろうが、それでも最後まで視聴者を画面に釘づけにするだけの「力」を、名匠・井上梅次監督とそのスタッフは確実に持っていた。中盤、死んだと思われていた明智は、約20分間も物語から姿を消していたのだが、そんなことさえ感じさせないテンポの良さが本作のキモ。これは特に初期「90分枠」時代の『美女シリーズ』に顕著な特徴である。時間が短ければ内容もそれなり、と思ったら大間違いなのだ。

 最後にいくつか、補足ポイントを挙げておく。

●本作が放送されたのは「1978年1月7日」だが、この日、『土曜ワイド劇場』の直前に同じテレビ朝日で放送されたのは後の長寿番組『吉宗評判記・暴れん坊将軍』の第1話だった。この作品に、夏樹陽子は女お庭番・おそのとしてレギュラー出演。つまり、この日の夜8時からは2時間半にわたって「夏樹陽子祭り」だったのだ。

●荒井注が演じる「浪越警部」は本作で初登場。石坂浩二が演じる金田一耕助には加藤武の等々力警部が似合うように、やはり天知茂の明智には、この人の存在が不可欠だ。

●思いがけず、自分の不幸な生い立ちを知ることになる「もうひとりの美女」綾子を演じたのは高橋洋子。実は、原作ではこのポジションは文代で、ここでの出会いを契機に、やがて明智と文代は結婚する。本作がシリーズ第1作であれば、このまま綾子(文代?)が次作から明智の助手となる展開もあり得たのかもしれない。

●旅先から戻ってきて、すぐに捕らえられてしまう明智。上野駅に着いたとき、まるで『銀河鉄道999』の車掌のような服装をしているが、これが似合ってしまうところもまた、天知ならではの魅力である。

ライター/用田邦憲